CEマーキングで求められるリスクアセスメント(Risk assessment)について
機械指令(2006/42/EC)では、リスクアセスメントが要求されています。
また、機械指令に限らず、低電圧指令やEMC指令でもリスクアセスメントが要求されています。
CEマーキングで求められるリスクアセスメントは、様々な指令で要求されますが、ベースとなる考え方等は共通するものがありますので、ここでは、機械のリスクアセスメント(Risk assessment)について記載していきます。
リスクアセスメントについては、複数回に渡って記載していきたいと思います。
リスクアセスメントとは何?
このページをご覧頂いている皆様はリスクアセスメントという言葉を一度は耳にされた事があるかと思います。
まず「リスク」という言葉を聞くと、どの様なイメージを持たれますでしょうか。
世の中には医療リスクや事業リスクといった様に“リスク”という言葉は、様々な分野で様々な用語と組み合わせて使用されています。
これは、今の時代において、組織や社会が対応しなければならないリスクが無数にあることを意味しているのでは無いでしょうか。
今回のテーマであるリスクアセスメント(Risk assessment)ですが、簡単に言えば、リスクを分析し、評価を行い、そのリスクが許容出来るか否かを決定する一連の作業を指します。
リスクアセスメントを実施する為には、このリスクが“許容出来るか否か”という言葉が非常に重要となります。
詳細は、ISO/IEC Guide 51という規格に記載されています。
ISO/IEC Guide 51で定められているリスクアセスメントについて
<ISO/IEC Guide 51:2014>
Safety aspects — Guidelines for their inclusion in standards(安全側面−規格への導入指針)
3.15 許容可能なリスク(tolerable risk)
現在の社会の価値観に基づいて、与えられた状況下で、受け入れられるリスク(3.9)のレベル
(注記) この規格において、“受容可能なリスク(acceptable risk)”及び“許容可能なリスク(tolerablerisk)”は同義語の場合がある。(JIS Z 8051:2015より)
上記の様にその時代の社会の価値観に基づく所与の状況下で受け入れられる、となっています。
要はリスクというものは、その時代時代での考え方が違う為、状況に応じた判断が必要となります。
当然この内容には、法令や規格の内容も含まれます。
ご参考までにISO/IEC Guide 51は、2014年に実に15年ぶりに改訂が行われ、現在、2014年度版が最新となっています。
また、JIS(日本工業規格)につきましても、対応JIS規格としてJIS Z 8051:2015が発行されています。
前置きが長くなりましたが、リスクアセスメントを実施する為には、許容可能なリスクというものの意味合いを確実に理解しておかなければなりません。
機械指令のリスクアセスメントについて
それでは、機械のリスクアセスメントについてのお話に入りたいと思います。
まず、欧州機械指令(Machinery Direcitve)2006/42/ECのEssential health and safety requirements relating to the design and construction of machinery(機械の設計及び製造についての健康及び安全に関する必須要求事項)*には、リスクアセスメントの必要性について、以下の様に記載されています。
*欧州機械指令(Machinery Directive)のAnnex(附属書)Iがこれに当たります。
まずは指令の原文からです。
GENERAL PRINCIPLES
1. The manufacturer of machinery or his authorised representative must ensure that a risk assessment is carried out in order to determine the health and safety requirements which apply to the machinery. The machinery must then be designed and constructed taking into account the results of the risk assessment.
By the iterative process of risk assessment and risk reduction referred to above, the manufacturer or his authorised representative shall:
— determine the limits of the machinery, which include the intended use and any reasonably foreseeable misuse thereof,
— identify the hazards that can be generated by the machinery and the associated hazardous situations,
— estimate the risks, taking into account the severity of the possible injury or damage to health and the probability of its occurrence,
— evaluate the risks, with a view to determining whether risk reduction is required, in accordance with the objective of this Directive,
— eliminate the hazards or reduce the risks associated with these hazards by application of protective measures, in the order of priority established in section 1.1.2(b).
(和訳)
一般原則
1. 機械の製造者又は代理人は、機械に適用される健康及び安全に関する必須要求事項を決定する為にリスクアセスメントを実施しなければならない。
機械は、リスクアセスメントの結果を考慮して、設計及び製造しなければならない。
上記のリスクアセスメント及びリスク低減の繰り返しにより、製造者又は代理人は;
- 機械の制限を決定する、これには意図する使用及び合理的に予見可能な誤使用を含む
- 機械から起こり得る危害及び関連する危険状況を同定する
- 起こり得る怪我又は健康への被害のひどさ及びその発生確率を考慮して、リスクを見積もる
- 本指令の目的に従い、リスク低減が要求されるかどうかを決定する為にリスクを評価する
- 1.1.2(b)に定められる優先順位に基づき、保護手段を適用する事により危険源を除去する又はそれらの危険源に関連するリスクを低減する
欧州機械指令(2006/42/EC)に特化するのであれば、リスクアセスメントのプロセスを最も容易にする為には、整合規格を適用する事が最もシンプルな方法となります。
少し話が逸れますが、機械指令に限らず、CEマーキングに関わる欧州指令では指令の要求事項を満足する為にほとんどの場合、規格(Standard)が用いられます。
機械指令の規格体系
機械指令では、この規格は3つの階層に分けられます。
タイプA規格
タイプA規格は、全てのカテゴリの機械に適用可能な基本コンセプト、用語及び設計原則を定めている。
この様な規格を単独適用は、機械指令の正しい適用に関連する重要な枠組みは提供されるが、指令に関係する健康及び安全に関する必須要求事項への適合を確実に満足する為には不十分である為、完全な適合の推定を与えるものではない。
例えば、EN ISO 12100の適用は、Annex Iの一般原則の要求事項に基づきリスクアセスメントが実施される事を確実にするが、機械から生じる危険源を取り扱う為に製造者が実施した保護方策がAnnex Iの関連する健康及び安全に関する必須要求事項に適合している事を示す為には不十分である。
タイプB規格
タイプB規格は、機械の安全に関する特定の側面又は特定の種類の安全対策を取り扱っており、広いカテゴリの機械に対して適用可能である。
タイプC規格又は製造者によるリスクアセスメントに基づき、タイプB規格に規定される技術方策が所定のカテゴリ又は機械のモデルに適切であると判断された場合、タイプB規格の適用については、規格が取り扱う機械指令の必須要求事項への推定を与える。
単独で市場に置かれる安全構成部品に関する規定を定めるタイプB規格を適用する事は、当該安全構成部品及びその規絡により取り扱われる健康及び安全に関する必須要求事項についての適合の推定を与える。
タイプC規格
例えば、機械プレス、コンバインハーベスタ又はコンプレッサ等の様な機械のカテゴリに対しての規格である。
1つのタイプC規絡によってカバーされるカテゴリに属する様々なタイプの機械は、類似の使用目的を有し、類似の危険を生じる。
タイプC規格は、タイプA又はタイプB規格のどの規定を適用出来るのかを示した上で、タイプA又はタイプB規格を参照する事が出来る。
機械の安全に関して、タイプC 規絡がタイプA 又はタイプB規格の規定と異なる場合、タイプC規絡の規定がタイプA又はタイプB規格の規定に優先する。
製造者のリスクアセスメントに基づき、タイプC規格を適用する事は、規格が取り扱う機械指令の健康及び安全に関する必須安全要求事項に対する適合の推定を与える。
尚、ご参考までに、前述のISO/IEC Guide 51では、上記のタイプA、B、C規格は以下の様な分類方法及び説明となっています。
− タイプA規格 ⇒ 基本安全規格:広範囲の製品及びシステムに適用可能な一般的な安全側面に関する基本的な概念、原則及び要求事項からなる。
− タイプB規格 ⇒ グループ安全規格:幾つかの製品若しくはシステムに、又は類似の製品若しくはシステムのファミリーに適用可能な安全側面からなり、一つ以上の委員会で扱われ、できる限り基本安全規格を引用する。
− タイプC規格 ⇒ 製品安全規格:特定の製品若しくはシステム、又は製品若しくはシステムのファミリーのための安全側面からなり、一つの委員会の範囲内にあり、できる限り基本安全規格及びグループ安全規格を引用する。
さて、次回のコラムでは、規格との関連性も踏まえ、具体的なリスクアセスメントの実施方法について解説していきたいと思います。
CEマーキングで要求されるだけでなく、製品の設計/製造においてリスクアセスメントを行うことは非常に重要なものです。
イーエムテクノロジーでは、CEマーキングで必要となるリスクアセスメントの実施、リスクアセスメントシートの作り方など、一連の業務を行っております。
詳しくは、こちらの「CEマーキング適合支援サービス」をご覧下さい。
ご不明点等ございましたら、当社までお気軽にご相談頂ければと思います。