固定設備のEMC試験について(2)

EMC指令の固定設備で要求される「適切な技術対応(GEP)」とは?

前回コラムに引き続き、EMC指令(2014/30/EU)で要求される適切な技術対応(Good Engineering Practice)ですが、製造者は具体的にどのようなことをやらなければならないのでしょうか?

ここで言われる「適切な技術対応“GEP”(以下、GEPと表します。)」とは、次のような意味を指しています。

 

「その特定の固定設備に適用できる認知された規格や実施規範を考慮し、当該指定場所におけるEMC目的のための適切な技術的行為」

 

このGEPにより、EMC指令への適合証明を行おうとする場合は、対象製品にEMCに関する知見を持ってEMC対策を行い、製造現場などで行うオンサイトEMC試験を行うといった技術対応が一般的に採られているやり方です。

 

製品に盛り込むEMC対策については、欧州委員会ホームページにあるEMC指令ガイドでは、次のように記載されています。

 

(例)

・エミッション:ノイズフィルターや吸収デバイス等の追加により、妨害波低減のための適切な対応を行う

・結合及び放射:距離、等電位アース処理、ケーブルの選択、遮蔽等に関する適切な対応を行う。

・イミュニティ:予期される様々な種類の妨害波に対し、影響されやすい機器が保護されることを保証するための適切な対応を行う。

・当該固定設備における外部環境から明確に区別するために固定設備の境界/地理的範囲を特定する。

 

上記のようなEMCに関する技術対応を実施したとしても、EMC指令要求に適合しているとは言い切れませんので、さらに現場で行うオンサイトEMC試験を行い、そのEMC試験結果を基に適合証明を行うといった流れが一般的です。

 

一方で、EMCリスクを低減するような内容を記載した技術文書を作成し、適合証明を行うといった方法もありますが、コンプライアンス問題が重要視される今日では、技術文書の作成だけで済ますのは不十分な対応と言われるかもしれません。

 

後々のトラブル回避を含め、ノイズ対策を含めたオンサイトEMC試験の実施とそれにかかる技術文書の作成を行い、EMC指令への適合証明とすることをおすすめ致します。

 

固定設備のオンサイトEMC試験について

オンサイトEMC試験とは、電波暗室やシールドルームで行うようなEMC試験ではなく、使用現場または製造現場にて行う試験方法のことです。

出張EMC試験、オンサイトEMC試験と呼ばれたりもします。

現場で行うオンサイトEMC試験は、電波暗室のような電磁波を遮断した試験環境で試験が実施できるわけではないため、完全な規格試験ではありません。

オンサイトEMC試験は、試験の本質は変わりませんが、できる限り規格に沿った方法で試験を行うことになります。

 

EMC試験とは?

EMC試験とは、次に挙げる2つの側面を持つ試験です。

1つめは、製品自身から発する電磁ノイズを規制するエミッション測定と、2つめは、製品外部からノイズが加わった際に誤動作しないかどうか、ノイズ耐性を確認するイミュニティ試験があります。

 

EMC指令の付属書Ⅰにある基本要求事項では、以下のとおりエミッションとイミュニティの両面の能力を要求しております。

 

(1) 機器から発生する電磁妨害波は、無線機器、電気通信機器又は、その他の機器の意図された動作ができなくなるレベルを超えないこと。 (エミッションに関する規制)

 

(2) 意図された使用の際に予期される電磁妨害波に対して、許容できない劣化を生じることなく動作できるイミュニティ(電磁妨害耐性)レベルを有すること。 (イミュニティに関する規制)

 

(1)では、機器のエミッションに関する規制が、(2)では、機器のイミュニティ耐性に関する要求が記載されています。

かなり抽象的な表現で書かれていますが、要するには電磁波による干渉を与えず、受けずということが要求されているわけです。

では、これらの抽象的な要求事項を満たすためには一体どうすればよいのでしょうか?

 

これらの要求を満たすためには、製品にふさわしい整合規格を選定し、その規格にある試験方法やレベルを基にEMC試験を行い、製品のEMC性能には問題がないということを証明していくことになります。

 

整合規格について

整合規格とは、欧州委員会が発行する欧州官報(OJEU=Official Journal of the European Union )に記載されたEN規格のことです。

この整合規格を適切に選択し、その整合規格にあるEMC試験に合格していれば、EMC指令への適合証明になります。

例えば、産業機器などの大型装置の場合では、オンサイトEMC試験の整合規格としてEN55011やEN61000-6-2が使われます。

EN55011「ISM機器(工業・科学及び医療装置)からの妨害波の許容値及び測定方法」では、試験所及び現場で行うためのエミッション測定方法が定められており、規格内で現場で行うオンサイトEMC試験が認められています。

EN61000-6-2「工業環境のイミュニティ試験」では、オンサイト試験としてアレンジした試験方法で実施することが可能です。

 

 

<主なエミッション測定>

・放射エミッション測定

・雑音端子電圧測定

 

< 主なイミュニティ試験>

・静電気放電試験

・放射イミュニティ試験

・ファーストトランジェント/バースト試験

・雷サージ試験

・伝導イミュニティ試験

・電源周波数磁界試験

・電圧ディップ、瞬停試験

 

このように、固定設備がEMC性能を持っているということを証明するには、整合規格をできる限り用いた現場EMC試験を実施し、機器のエミッションは規制値以内であり、イミュニティ試験におけるノイズ耐性を有していることを実証する方が、「適切な技術対応“GEP”」としてより相応しいと言えます。

 

固定設備のCEマーク表示について

EMC指令における「固定設備」では、EMC指令の必須要求事項に対する適合は必要ですが、EMC指令としてのCEマークの貼り付けや適合宣言書は不要となっております。

しかし、製品がその他指令(機械指令など)に該当する場合は、機械指令の要求を満たし、CEマークを貼り付けることが必要となります。

EMC指令では、固定設備に該当する場合はCEマークは不要ですが、機械指令では必要になってきます。

このように、CEマーキングの貼り付けについては、EMC指令だけでなく、その他指令(機械指令や低電圧指令等)の要求に適合していることを示すマーク表示になります。

 

特定の固定設備に組込まれる装置について

EMC指令の第19条「固定設備」には、特定の固定設備に組込まれる装置に関する除外規定が記載されています。

不特定の固定設備に組込まれる装置に関しては、本除外規定は適用されません。

 

1. 市場で入手可能にされている装置及び、固定設備に組込むことができる装置は、この指令で定める装置に対する全ての関連規定に従わなければならない。

ただし、特定の固定設備に組込まれることを意図している装置、または他に市場で入手可能にされていない装置の場合、第6条から第12条、及び第14条から第18条の要求事項は強制されない。

このような場合、添付文書にその固定設備と装置のEMC特性を特定し、当該設備の適合性を損なわないように、固定設備に組込まれる装置に対して講じるべき予防措置を示さなければならない。

第7条 第5項、第6条及び第9条 第3項に掲げる情報もこれに含まなければならない。

付属書Ⅰ第2項に掲げる適切な技術対応“GEP”を文書化し、その書類は当該固定設備が動作する限り、一人または複数の責任者が、各国関連当局が検査のために自由に使用できるように保管されなければならない。

 

2. 固定設備について不適合の指摘があるとき、特に、当該設備から障害発生に関する苦情があった場合、当該加盟国の管轄当局は、固定設備の適合証拠を要求し、必要に応じて評価に着手することができる。

不適合が確定された場合、管轄当局は、固定設備を付属書Ⅰに規定する基本要求事項に適合させるために、適切な措置を講じることができる。

 

3. 加盟各国は、固定設備を関連する基本必須要求事項に適合させるように、一人または複数の責任者を特定するために、必要な規定を制定しなければならない。

 

この除外規定の適用に関しては、EMC指令ガイド第4.4項「特定固定設備のための特定装置に対する要求事項」と併読して下さい。

 

一般原則として、全ての装置はEMC指令の関連規定の対象になりますが、特定の固定設備に組込まれることが意図されている装置で、且つ市場で入手できない装置に関して第6条から第12条、及び第14条から第18条の要求事項は強制されないことになっております。

この「特定の固定設備」というところがポイントになりますのでご注意下さい。

また、この「特定の固定設備」に組込まれる装置の場合でも、通常のEMC指令要求を適用してCEマーキングを行うことも可能となっております。

 

不特定の固定設備に組込まれる装置について

不特定の固定設備に組込まれる装置については、EMC指令の各要求事項が適用されます。

「特定の固定設備」に組込まれる装置に対し、本除外規定を適用するためには、下記に従う必要があります。

 

1. 本条項の対象となる特定装置は、製造者及び所有者、設置者、設計者、特定装置が意図する固定設備の運転者または責任者に直接の繋がりがある場合にのみ、装置はこの除外対象となり、供給者と顧客との繋がりが要求されます。

 

2. 特定装置に該当する場合、「型式、バッチ番号、シリアル番号又は他の識別情報、製造者名及び住所、製造者がEU域内に存在しない場合はEU域内の製造者認定代理人または装置をEUに上市することに責任を負う者の名前及び住所」を添付書類に記載しなければなりません。

 

また、特定装置が組み込まれる固定設備のEMC特性を特定し、さらに適合性を損なわないように特定装置の組込みのために講じるべき予防措置(配線方法、アース処理、遮蔽などのEMC対策)も添付文書中に記載する必要があります。

 

この除外は特例であり、ケースバイケースでのみ適用され、基本的要求事項と適合性評価手続き、それに続くEU適合宣言書、EMC目的のCEマークの表示及び情報は、強制ではありません。

 

最後に、くどいようですが、EMC指令の固定設備では、CEマークの表示を行う必要はありませんが、その他指令(機械指令など)でCEマークの貼り付け要求がある場合には、CEマークの表示が必要となりますのでご注意下さい。

 

固定設備のEMC試験のご相談

当社では、車の生産設備などの大型機械のCEマーキングにかかるオンサイトEMC試験サービスを行っております。

EMC試験機材一式を保有しており、EMC専門のエンジニアが対応致しますので、CEマーク業務がスケジュール通りに進みます。

EMC指令の解釈、試験の実施、技術文書の作成など、EMC指令適合のためのあらゆるサービスを行っておりますので、ご相談ごとがございましたら、是非ご連絡頂ければと思います。

 

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

2018年10月31日